昨年10月に販売開始した「あなたが知らないウニの世界」

「荒俣ワンダー秘宝館」の仕事でご一緒した荒俣宏さんが本をとても気に入ってくださり、なんと書評を書いてくださいました!

これは私たちウサギノネドコにとっては大事件であり、夢のような出来事なんです!

何と言っても荒俣宏さんは10年をかけて、世界大博物図鑑全7冊をお1人で書き上げるという、博物界においての大偉業を成し遂げたお方です。(世界大博物図鑑をご存じない方は、「松岡正剛の千夜千冊」の記事が最高にエキサイティングで面白いので是非お読みください。)

(「世界大博物図鑑(別巻2)水生無脊椎動物」)

書評を書いていただいたことの興奮が収まりそうもありませんが…
荒俣さんによる「あなたが知らないウニの世界」の書評です。どうぞお読みください!

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本当に知らなかった棘の下の「驚異」
荒俣宏 2020.10.18
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 いま、生き物への関心が大きく変化してきたと感じているが、それを痛感する非常に美しい書物が刊行された。本の作りからして暗示的なのである。箱の一部をわざわざ切り取り、そこから書籍自体の表紙が覗ける仕掛けがしてある。箱には棘のあるウニが見えるのに、切り取られた「窓」からは、棘の下に隠されたウニの殻が覗くのだ。これがまた、動物の殻とは信じられぬくらいに幾何学的設計を守り抜いた結晶体なのである。

 生物としてのウニの形態にただならぬ関心を寄せた先駆者に、ドイツの博物学者エルンスト・ヘッケルがいる。彼はダーウィン進化論の熱烈な擁護者だったが、無脊椎動物への偏愛がいちじるしく、クラゲ、サンゴ、放散虫などの形態を研究しつづけた。なぜなら、内骨格を持つ脊椎動物を基準にした当時の分類学に飽き足らなかった彼が、無脊椎動物の分類に外骨格、すなわち外側の形態を手掛かりにする試みを思いついたからであった。
(ヘッケルによるウニの図版:荒俣ワンダー秘宝館にて展示)

 これでゲーテ以来の形態学に進展が生まれた。外側の形を問題にすることで、人間が「おはこ」にしていた美術という営為が、じつは生物全体、いや植物や鉱物を含む自然全体の造形と原理を同じくしているのではないかという仮説が生まれたのだ。

 この発想を深めるため、ヘッケルは元来画家を志望した事情もあって、生物の「芸術的な自然造形」という大きな博物版画集を刊行したのだった。当時この発想は欧州に支持者を得て、1900年のパリ万博の正門に放散虫の形がデザインされるなどの成果が表れた。

 でも、肝心の無脊椎動物の芸術的フォルムをしっかりと観察できる画集の発行は途絶え、ウニについてもその造形を開示する試みにはつながらなかった。

 しかし、21世紀になり、高度な写真術やデジタル技術が一般にも開放され、たとえばヘッケルが愛した極小の放散虫や、生体が得られなかった珍奇な刺胞動物などの形態を記録した写真が、わたしたちにも撮影できるようになった。その動きはここ十年間に一気にステージアップして、深海生物の驚くべきフォルムまでも美しい写真に収められるようになった。

 だが、真打ともいえるウニだけは、すこし特殊なのだ。ウニが内蔵する真の「芸術的造形」は、無脊椎動物のくせに棘ある表層の下に隠されていたのだった。これでは、われわれも気づけない。

 この本の著者、アシュリー・ミスケリー氏はそれを追究したのである。ウニが死んで外皮がなくなると顕われる殻は、まずその形態が芸術品だった。そのまま置いても美術品になるほどだ。また色彩も驚くほど鮮やかで、しかも光に当たっても色あせることがない。ヘッケルが生物は芸術すると直感したのも無理ではなかった。

 私は偶然にも、この本に掲載された南オーストラリアの海に潜ったことがあるが、冷たい海中は北半球とはまるで異なる花畑のように美麗な無脊椎の楽園だった。海底に散らばったウニを拾い、殻をむき出してみて、その鮮やかすぎる色彩デザインに度肝を抜かれた。そのオーストラリア産ウニの美品が、惜しげもなく表れる。しかも適切な解説があって、このグループが恐竜時代からすでに現在に近い形態を獲得していたことを知ることができた。

 私は本書のページをめくりながら考えた。たぶん生物の芸術的造形は、無脊椎動物への関心が高まることで、ヘッケルの時代に見られたのに近い魅惑を発散し出すにちがいない、と。

 地球環境が変化した今だからこそ重要な、見落とされてきた自然の術の再評価につながるだろう。

 ついでに、本書が教えてくれたことをもう一つ。「ブンブク」とか「タコノマクラ」とか、あるいは「スカシパン」と呼ばれるウニの一群がある。名前だけ妙におもしろいという印象しかなかったが、普通のウニに劣らない奇蹟的な形態を持つ生き物だと知った。この仲間はたいてい砂に潜っているが、こんど海へ行ったら、実物を探しだすぞ!

荒俣宏

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本書の魅力をエルンスト・ヘッケルと並べてご紹介いただきました。

書籍の販売開始した時点ではまだ荒俣宏さんとはお会いしていませんでしたが、頭の片隅で「荒俣宏さんの手に渡って、書評を書いてもらえたらなぁ…」という淡い夢を抱いておりました。それがまさか1年後の現在。お仕事をご一緒することになり、本当にそれが実現するとは…。

荒俣さんからさらなるサプライズを頂戴しました…。書籍の帯やPOPなどでも使えるようにと、なんと手書のコメントまでいただきました!


博物にまつわる世界中の書籍をご覧になっている荒俣さんに「家宝にします」とまでおっしゃっていただきました。なんたる光栄でしょう…。

是非、この書評をきっかけにさらに多くの方に書籍をお手にとっていただければと思います。

「あなたが知らないウニの世界」、ウサギノネドコオンラインストア、ウサギノネドコ京都店、東京店でお買い上げ頂けます。

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